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大阪地方裁判所堺支部 昭和54年(ワ)591号 判決

原告

土居正成

被告

久嶋被明

主文

一  被告は原告に対し、金四二万五、七九〇円及び内金三七万五、七九〇円に対する昭和五四年四月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告その余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その六を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、金一〇一万五六円及び内金九一万五六円に対する昭和五四年四月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  本件事故の発生

原告は、昭和五四年四月一〇日午後七時ころ、大阪府藤井寺市大井二丁目四八〇番地先国道一七〇号線道路上において、足踏自転車で西から東へ横断中、北から南へ進行してきた被告運転の普通乗用車に側面衡突され、左下腿腓骨々折、頭部挫創、右手・下腿・左下腿挫創、左膝関節挫傷等の傷害を負つた。

なお、被告は、右国道の側道から本線に進入すべく北から南へ進行してきたものである。

2  帰責事由

被告は、加害車両の所有者であり、これを自己の運行の用に供していたものである。

また、被告は、前記のとおり側道から本線に進入する際右後方の安全確認のみに注意を奪われ、前方の安全確認を怠つたため、原告が足踏自転車に乗つてその前方を横断してくるのを発見するのが遅れ、本件事故を惹起したのであるから、前方不注視の過失があつたものといわざるをえない。

従つて、被告は、自賠法三条もしくは民法七〇九条により、原告の被つた後記損害を賠償すべき義務がある。

3  損害

(一) 療養費

原告は、本件事故による負傷のため、昭和五四年四月一〇日から同月二一日まで一二日間松山外科診療所(藤井寺市西大井一丁目四六五番一号所在、医師松山典正担当)に入院し、その後同年五月二四日まで三三日間同診療所に通院して治療を受け、その後同年六月一七日まで二四日間自宅療養した。

なお、その間同年四月一八日から五月二日にかけて一五日間ギブスを装着していた。

これらの治療のために、原告は、次のような損害を被つた。

(1) 入院雑費 金八、四〇〇円

(2) 通院交通費 金一万八、九九〇円

(3) 付添費 金二〇万六、六六六円

ただし、原告は、本件事故による負傷のため歩行不能となり、入院中及びギブス装着期間中母親の付添を必要としていた。この間及びその後八日間、母親は、丸平製作所、平田製作所の二か所の勤務先を欠勤したため、収入の減収があり、その減収分を付添費用てして請求するものであり、その算式は次のとおりである。

50,000円×16/30+180,000円×30/30=206,666円

(4) 文書料 金四、〇〇〇円

(二) 休業補償 金二七万二、〇〇〇円

原告は、昭和五四年四月九日定時制高校に入学し、同年四月一日から訴外細川商会に日給金四、〇〇〇円で就職する予定となつていたが、本件事故のため同年一一日から同年六月一七日までの六八日間休業を余儀なくされた。

(三) 慰藉料 金四〇万円

(四) 弁護士費用 金一〇万円

4  結論

よつて、原告は被告に対し右損害額の合計金一〇一万五六円及び弁護士費用を除く内金九一万五六円に対する本件事故の翌日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する被告の答弁

請求原因1、2の各事実は認めるが、同3の事実及び主張は争う。

三  被告の抗弁

1  過失相殺

原告は、本件事故発生の際、無灯火で横断し、かつ左右の安全確認を怠つたため、本件事故を回避できなかつたのであるから、原告にも過失があつたという外なく、被告の過失と比較した場合、本件損害額から五〇パーセントの過失相殺がなされるべきである。

2  損益相殺

原告は、療養費として、原告主張の損害の外に、自賠責保険から金三九万二、六一〇円の入院治療費の支払いを受けている。

四  抗弁に対する原告の答弁

抗弁1の事実は否認する。

抗弁2の事実中、原告が自賠責保険から金三二万一、八九〇円の支払いを受けたことは認めるが、その余は否認する。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因1、2の各事実は当事者間に争いがない。

二  本件事故により原告が被つた損害額について判断する。

1  療養費 金四八万八、五〇〇円

成立(写しについては原本の存在を含む。)に争いのない甲第二ないし第六号証、第一〇号証の一ないし二三、乙第一号証、原告法定代理人土居小富及び原告本人の各尋問の結果を総合すると、原告は、本件事故による負傷の治療のため、昭和五四年四月一〇日から同月二一日まで一二日間松山外科診療所に入院し、次いで同年五月二四日まで三四日間同診療所に通院し、その間同年四月一八日から同年五月二日にかけて一五日間ギブスを装着し、ギブスを外してからもすぐには足を動かすことができなかつたため、結局入院当初の同年四月一〇日から同年五月一〇日まで原告の母土居小富の付添看護を受けたことが認められる。

(一)  入院雑費 金八、四〇〇円

右事実から、入院中に要する諸雑費は一日あたり少なくとも金七〇〇円を下ることはないと推認されるから、原告は、入院中の諸雑費として少なくとも金八、四〇〇円の出捐をなし、同額の損害を被つたものと認める。

(二)  通院交通費 金一万八、九九〇円

右掲の各証拠により、原告は、通院のためタクシーを利用して金一八、九九〇円の出捐をなしたことが認められるが、負傷の内容からして、右出捐は、本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

(三)  付添費 金六万四、五〇〇円

原告の負傷の内容からしてギブス装着期間中(入院当初からギブス装着の日まで含む。)は勿論、実際に母親の付添看護を受けた日までの付添費相当額は、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのを相当とするが、その相当額は、入院期間中(一二日間)は一日あたり金三、〇〇〇円、通院期間中(一九日間)は一日あたり金一、五〇〇円と認めるのが相当である。

なお、原告は、付添費として、原告の母が付添看護のため休業を余儀なくされたので、休業による減収分を請求しているが、右損害は、本件事故との相当因果関係のある付添費ないしは付添費相当額とは認め難いので、採用できない。

(四)  文書料 金四、〇〇〇円

右掲の各証拠により、原告は、診断書等請求のため金四、〇〇〇円の出捐をなし、同額の損害を被つたことが認められる。

(五)  診療報酬 金三九万二、六一〇円

右掲の各証拠により、原告の診療のため、松山外科診療所に合計金三九万二、六一〇円支払われたことが認められる。

2  休業補償 金二七万二、〇〇〇円

成立に争いのない甲第七号証、原告法定代理人土居小富及び原告本人の各尋問の結果によれば、原告は、本件事故により、アルバイト予定先の細川石油商会に昭和五四年四月一一日から同年六月一七日までの六八日間勤務することができず、日給として受給すべき金四、〇〇〇円の収入を右全期間にわたつて逸失したことが認められる。

3  慰藉料 金二〇万円

本件事故の体様、負傷の程度、内容等からして、本件事故によつて原告の受けた精神的苦痛を慰藉するには、金二〇万円が相当である。

4  過失相殺(抗弁1の主張)

成立に争いのない甲第一一号証の一ないし九及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、友人三名位と前記日時場所において、無灯火で足踏自転車に乗つて前記国道を横断していたのであるが、その際自車左前方約三〇メートルの地点に被告運転の普通乗用車が自分の方に接近してきていることを認めながら、乗用車の方が避けてくれるであろうと過信して、停車等の措置をとることなく、漫然と横断したため、本件事故にあつたことが認められ、本件事故発生については無灯火で自転車に乗つていた点及び停車等の事故回避の措置をとらなかつた点に、原告にも過失があつたものといわざるを得ないから、その過失の内容、程度及び本件事故の体様等からして、本件損害額から二割を過失相殺すべきものと判断する。

5  損益相殺(抗弁2の主張)

原告は、右1ないし3の合計金九六万五〇〇円から前記過失相殺により二割を減じた金七六万八、四〇〇円の損害賠償請求権を有するものというべきところ、前記甲第五号証、乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、診療報酬として、右1、(五)記載の金三九万二、六一〇円が自賠責保険から支払われていることが認められ(ただし、原告が金三二万一、八九〇円の支払いを受けていることは当事者間に争いがない。)、従つてこれを控除すると原告の右損害賠償請求権は、金三七万五、七九〇円となる。

6  弁護士費用 金五万円

弁護の全趣旨によれば、原告は、本件訴訟の提起と追行を本件原告訴訟代理人に委任し、そのために相当額の弁護士費用の出捐を余儀なくされたことが認められるが、本件訴訟の経緯、本件事故の体様等に照らし、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用出捐による損害は、金五万円と認めるのが相当である。

三  以上によれば、被告は原告に対し、本件事故による損害賠償として、右認定の金三七万五、七九〇円と金五万円の合計金四二万五、七九〇円及び右三七万五、七九〇円に対する本件事故発生時後である昭和五四年四月一一日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

よつて、原告の本訴請求は右認定の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 木村修治)

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